tsukune32

優しい月-Missing link-

優しい月-Missing link- (4)

「麻奈は、大学にはいかないの?」  朔にある日、何気ないように尋ねられた。どうしても学校のことが気になって、今授業はどこまで進んでいるのだろうかと、教科書をぼんやりとぱらぱらめくっていたときのことだった。 「……わかんない。あたし、ヒキ...
優しい月-Missing link-

優しい月-Missing link- (3)

 翌朝になっても、麻奈の家は冷え切ってガランとしていた。  パジャマ姿のまま、雨戸が締め切られて暗いリビングに降りていくと、テーブルの上に一枚のメモといくらかのお金があった。  仕事が忙しいことと、しばらく帰宅できないという内容の母親の...
優しい月-Missing link-

優しい月-Missing link- (2)

 自宅に着いたら、あと二時間ほどで日付が変わるというくらいの時間になっていた。  住宅街の中にある、ごく一般的な一軒家の窓には、しかしひとつも明かりは灯っていなかった。  暗く沈んだその光景を見て、麻奈は気分がすとんと沈み、それで自分は...
優しい月-Missing link-

優しい月-Missing link- (1)

「やめた方がいいよ」  そんな声がいきなり、まったく予想もしなかった方向から聞こえてきたとき、麻奈(マナ)は意表を突かれすぎてろくに反応もできなかった。  秋から冬へと、季節が移ろいつつある夜。半月より少しふっくらした感じの月は綺麗だが...
月の鬼

「月の鬼」あとがき

このお話は、私なりの「鬼」を書いてみようと、かなり昔に執筆したものです。 曖昧な設定と展開、擬音の多用、やたらに区切られた散文的な文章は意図的なものですが、正直あまり読みやすいとは言えません。 しかしこれも記念と、最低限の手直しの他は、...
月の鬼

「月の鬼」終ノ段

    ひゅおおおお……     ひゅおおうううう……  風が、吹く。  風は木々の枝葉をざわざわと揺らし、ざあっと青い草の上を走り抜け、天空へと、舞い上がる。     ひゅおおおおう……     ひょおおおお……  天にかかっ...
月の鬼

「月の鬼」漆ノ段

   ひゅおおおお    ひゅおおうう……  女の悲鳴のような風が、吹いている。  風は止む事がなく、天の雲を押し流し、かかる白銀の月を覆い、また引いてゆく。  ざわついた木々のざわめき、草のさやぎは、魑魅魍魎が闇の中を跋扈している...
月の鬼

「月の鬼」陸ノ段

 その夜は月も星もなく、かわりに、土砂降りの雨が降っていた。  大きな木の根元に身を凭れさせていても、雨粒を避けることはできない。  ぐったりと瞼を閉じた神楽の、白すぎる頬を、狼達が心配そうに、ぺろりぺろりと舌で舐める。  瞼が僅かに...
月の鬼

「月の鬼」伍ノ段

 風が吹き抜ける。  雲間から差す月光をその身に受けて、ただ神楽は、風に吹かれている。ひとけのない丘の上に、ひっそりと、その身を晒している。  風が吹き、神楽の纏う豪奢な金襴の唐織の裾をすくう。短い、絹糸のように柔らかな髪を、肩の上で躍...
月の鬼

「月の鬼」肆ノ段

 半蔀ひとつない、暗い、板敷きの間。  几帳がひとつだけ立てられたその冷たい場所に、神楽は黄金の太刀を抱いたまま、独り座り込んでいる。     りーーーん……  太刀の柄に下がった金の鈴が、揺れもせずに、鳴る。  指をふれさせてもお...