tsukune32

月の鬼

「月の鬼」参ノ段

    りーーーん……  月光に青く照らされた、風にさやぐ草の海の中で、神楽は独りきりで、天を見上げている。     りーー…ん……  その細い腰に佩いた、黄金の太刀に下がった金の鈴が、風に揺られて儚い響きを震わせる。  強めの風に...
月の鬼

「月の鬼」弐ノ段

 冴え冴えとした月光の下、そのひとは、その貌を覆っていた白い能面を外した。  神々でさえ息を飲み、称賛せずにおれぬだろう、玲瓏と澄んだ美貌が、月明かりに青白く照らされる。  その美しさは、生身あるもの、生あるもののみが持ち得る、生々しい...
月の鬼

「月の鬼」壱ノ段

 そこは、街の中ではかなり高級な部類に入る、宿の一室。  揺れる燭台の明かりに照らし出されたそこでは、一組の男女が、衣を乱れさせて、互いをまさぐり合っていた。  ひとりは、透けるような肌の、歳若く美しい女。  ひとりは、なかなかに男前...
月の鬼

「月の鬼」月下ノ段

    ひゅううううう     ひゅおおおおおう  甲高い女の悲鳴のような風が、しっとりとした闇に満ちた夜気を切り裂いてゆく。     ひゅおおおおううう……  風は生暖かく、さやさやと草を揺らし、ざわざわと夜に不気味に佇む木々の梢...