優しい月-Missing link- 優しい月-Missing link- (4) 「麻奈は、大学にはいかないの?」 朔にある日、何気ないように尋ねられた。どうしても学校のことが気になって、今授業はどこまで進んでいるのだろうかと、教科書をぼんやりとぱらぱらめくっていたときのことだった。 「……わかんない。あたし、ヒキ... 2020.08.20 優しい月-Missing link-
優しい月-Missing link- 優しい月-Missing link- (3) 翌朝になっても、麻奈の家は冷え切ってガランとしていた。 パジャマ姿のまま、雨戸が締め切られて暗いリビングに降りていくと、テーブルの上に一枚のメモといくらかのお金があった。 仕事が忙しいことと、しばらく帰宅できないという内容の母親の... 2020.08.20 優しい月-Missing link-
優しい月-Missing link- 優しい月-Missing link- (2) 自宅に着いたら、あと二時間ほどで日付が変わるというくらいの時間になっていた。 住宅街の中にある、ごく一般的な一軒家の窓には、しかしひとつも明かりは灯っていなかった。 暗く沈んだその光景を見て、麻奈は気分がすとんと沈み、それで自分は... 2020.08.20 優しい月-Missing link-
優しい月-Missing link- 優しい月-Missing link- (1) 「やめた方がいいよ」 そんな声がいきなり、まったく予想もしなかった方向から聞こえてきたとき、麻奈(マナ)は意表を突かれすぎてろくに反応もできなかった。 秋から冬へと、季節が移ろいつつある夜。半月より少しふっくらした感じの月は綺麗だが... 2020.08.20 優しい月-Missing link-
月の鬼 「月の鬼」あとがき このお話は、私なりの「鬼」を書いてみようと、かなり昔に執筆したものです。 曖昧な設定と展開、擬音の多用、やたらに区切られた散文的な文章は意図的なものですが、正直あまり読みやすいとは言えません。 しかしこれも記念と、最低限の手直しの他は、... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」終ノ段 ひゅおおおお…… ひゅおおうううう…… 風が、吹く。 風は木々の枝葉をざわざわと揺らし、ざあっと青い草の上を走り抜け、天空へと、舞い上がる。 ひゅおおおおう…… ひょおおおお…… 天にかかっ... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」漆ノ段 ひゅおおおお ひゅおおうう…… 女の悲鳴のような風が、吹いている。 風は止む事がなく、天の雲を押し流し、かかる白銀の月を覆い、また引いてゆく。 ざわついた木々のざわめき、草のさやぎは、魑魅魍魎が闇の中を跋扈している... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」陸ノ段 その夜は月も星もなく、かわりに、土砂降りの雨が降っていた。 大きな木の根元に身を凭れさせていても、雨粒を避けることはできない。 ぐったりと瞼を閉じた神楽の、白すぎる頬を、狼達が心配そうに、ぺろりぺろりと舌で舐める。 瞼が僅かに... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」伍ノ段 風が吹き抜ける。 雲間から差す月光をその身に受けて、ただ神楽は、風に吹かれている。ひとけのない丘の上に、ひっそりと、その身を晒している。 風が吹き、神楽の纏う豪奢な金襴の唐織の裾をすくう。短い、絹糸のように柔らかな髪を、肩の上で躍... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」肆ノ段 半蔀ひとつない、暗い、板敷きの間。 几帳がひとつだけ立てられたその冷たい場所に、神楽は黄金の太刀を抱いたまま、独り座り込んでいる。 りーーーん…… 太刀の柄に下がった金の鈴が、揺れもせずに、鳴る。 指をふれさせてもお... 2020.08.19 月の鬼