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乙女の祈りは罪深く (3)

「……ってぇとなんだ、つまり」  翌朝。  昨日の嵐がきれいに通り過ぎ、爽やかに晴れ渡った初夏を思わせる青空の下を、カーレルは歩いていた。 「まあ要するに、家族に内緒でひそかに付き合ってた恋人が、いきなり消えちまった。ってとこかねぇ」...
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乙女の祈りは罪深く (2)

 ミシェリーナ・クレオティス。  と、その蜂蜜色のふわりとした巻き毛と菫色の瞳を持った美少女は名乗った。  雨風に打たれて冷え切ってしまっている彼女を、ひとまずリラが空いた部屋に誘導して着替えさせてから、あらためて食堂に連れてくる。 ...
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乙女の祈りは罪深く (1)

 嵐が訪れていた……。  吹きすさぶ強風と、叩きつけるような豪雨は、さながら滅びゆく天の断末魔のように地軸を揺るがしている。矮小な人間達が地べたに這いつくばるように築いた街の灯りも、強い風と雨の中にかき消されんばかりに、弱々しく揺らいでい...
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うららかに、桜舞う午後

「あら」  居酒屋兼食堂「ドラム・カン」でのバイトから戻った昼下がり。  安宿「こんな宿もあるさ亭」の受付カウンター前で、こぼれるような桜色を細い腕いっぱいに抱えた女性が、エミルを振り返った。  腰まで届くほど長い、真っ直ぐで艶やかな...
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無情も嵐も踏み越えて (7) -完結-

 気持ちの良い朝の光が差し込む、宿屋の廊下にて。 「あら、もうレラ姉さんに会ったんですか? さすがですねえ」  と、「こんな宿もあるさ亭」の店主トーマスの愛娘リラが、にこにこと笑いながら言った。 「先日から、こちらの魔道士ギルドに異動...
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無情も嵐も踏み越えて (6)

 魂が抜けてしまったような顔で、おそるおそる、エミルは持ち上げた自分の掌を見た。その手は細かく震え、一瞬で大量の血を失ってしまったように冷え切っていた。  路地の石畳に両膝を落としたままのエミルの側に、硬いヒールの音を控えめに立てながら、...
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無情も嵐も踏み越えて (5)

 エミルとレラが叫ぶのと、ほぼ同時に。  無数の火炎弾と、かまいたちに似た空気の刃が、空中や魔道士達のかざした掌から、カーレルに向かって連続で発射された。が、それは未だに効力を失っていなかった金色の光の壁によって、微動だにしなかったカーレ...
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無情も嵐も踏み越えて (4)

 考えてみれば今夜どこかに泊まる算段もしていない、というエミルに、仕方なくカーレルは、「今夜一晩なら部屋で寝かせてやる」と言い、連れ立って食堂を出た。 「ただし床で寝ろよ。あ、ちなみに余分な毛布もねえからな。そのへんはてきとーに自分でなん...
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無情も嵐も踏み越えて (3)

 エミルは呆然としていた。並んだ皿の上から次々に消えてゆく、料理の量とスピードに。  カーレルが自宅がわりに滞在している安宿「こんな宿もあるさ亭」から、徒歩でしばらく行った先にある、薄汚れた食堂である。幾つかのランプで照らされただけの、薄...
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無情も嵐も踏み越えて (2)

 エミルはまさに針のむしろに座る心地で、ギシギシという軋みを発する粗末な木製の椅子に腰を下ろしていた。 「いったいどうしてくれんだよ、ええ?」  借りてきた猫のように身を小さくしてうつむいている少年の前には、古ぼけたテーブルを挟み、同じ...