月の鬼 「月の鬼」参ノ段 りーーーん…… 月光に青く照らされた、風にさやぐ草の海の中で、神楽は独りきりで、天を見上げている。 りーー…ん…… その細い腰に佩いた、黄金の太刀に下がった金の鈴が、風に揺られて儚い響きを震わせる。 強めの風に... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」弐ノ段 冴え冴えとした月光の下、そのひとは、その貌を覆っていた白い能面を外した。 神々でさえ息を飲み、称賛せずにおれぬだろう、玲瓏と澄んだ美貌が、月明かりに青白く照らされる。 その美しさは、生身あるもの、生あるもののみが持ち得る、生々しい... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」壱ノ段 そこは、街の中ではかなり高級な部類に入る、宿の一室。 揺れる燭台の明かりに照らし出されたそこでは、一組の男女が、衣を乱れさせて、互いをまさぐり合っていた。 ひとりは、透けるような肌の、歳若く美しい女。 ひとりは、なかなかに男前... 2020.08.19 月の鬼
月の鬼 「月の鬼」月下ノ段 ひゅううううう ひゅおおおおおう 甲高い女の悲鳴のような風が、しっとりとした闇に満ちた夜気を切り裂いてゆく。 ひゅおおおおううう…… 風は生暖かく、さやさやと草を揺らし、ざわざわと夜に不気味に佇む木々の梢... 2020.08.19 月の鬼