「月の鬼」終ノ段

    ひゅおおおお……
    ひゅおおうううう……

 風が、吹く。
 風は木々の枝葉をざわざわと揺らし、ざあっと青い草の上を走り抜け、天空へと、舞い上がる。

    ひゅおおおおう……
    ひょおおおお……

 天にかかった白銀の満月が、冴え冴えと、地上を照らす。

    ひゅおおおお……

    ウォルルルーーン……

 風に混じってどこからか届く、月に哭く、哀しげな獣の声。

    ひゅうううう……

    りーーーん……

 風を追い駆けるように、風に混じるように。青く深く沈んだ暗い森の中に、幻のような、ひどく澄んだ、鈴の音が響いた。

    りーーーん……

 森を抜け、黒い、ごつごつとした岩の上を渡ってゆく。震えるような、透き通った鈴の響き。

    りーーーん……

 幻のような鈴の音が、どこからともなく鳴り響く。
 風の中にまぎれ、獣の声と調和する。
 ただ風は鳴り、月は仄かに焔を纏い、木々は語らず、そこに佇む。
 岩肌の上に、豪奢な唐織が、翻る。

    りーーーん……

 鈴が鳴る。

 風は今宵も、何者に捕らえられることもなく、吹き抜けてゆく。

 白銀の月の焔を受けて、黄金の太刀と小さな飾り鈴が、闇に燃え上がるように光った。
 人知れず佇む、絢爛な夢幻のように。


(了)

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