「月の鬼」肆ノ段

 半蔀ひとつない、暗い、板敷きの間。
 几帳がひとつだけ立てられたその冷たい場所に、神楽は黄金の太刀を抱いたまま、独り座り込んでいる。

    りーーーん……

 太刀の柄に下がった金の鈴が、揺れもせずに、鳴る。
 指をふれさせてもおらず、風も勿論ない中で。
 ただ鈴は、闇の中で鳴り響く。

    りーーーん……

「私を、呼んでいるのですか……」

    りーーーん……

「苦しいですか。哀しいですか。私を誰より憎み、さぞかし怨んでいることでしょう」

    りーーーん……
    りーーーん……
    りーーーん……

 問いかけのひとつごとに、鈴が、鳴る。
 神楽は僅かに首を傾けるように、胸に押し抱いた黄金の太刀に、白い頬をふれさせる。
 白い瞼の閉じられたその貌は、生者というより、死人のようだった。

「哀れなものですね……」
 黄金の太刀を抱いたまま。くすくす、と、神楽は笑みを零す。
 さらさらと落ちかかってきた肩までの黒髪が、その青白い頬と、青白い首筋を隠す。

    りーーーん……

 また、鈴が、鳴る。
 冷たく昏い闇の中、神楽は、いつまでもくすくすと笑い続ける。鈴を転がすような、軽やかな声で。独りきりのまま、いつまでも。

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